現地で暮らして何となく解ってきたフランス人の結婚観

入籍しないカップルの在り方を「フランス婚」と呼ぶように、法的な縛りがない自由な関係を好むイメージもありますが、フランス人が結婚しないわけではありません。現地で感じたフラン人の結婚観を推察してみました。

保障よりも愛?フランス人の結婚観

フランスに暮らして数年経ち、現地の友人と交流していくなか、日常的に習慣や考え方など日本との違いに触れていると、驚いたり、「なるほど」と感心させられることが多々あります。

日本では入籍をせずにパートナーと生活を共にする内縁関係を「フランス婚」という言葉で表現しますが、フランス人にとって結婚とは、あくまでも「ユニオン・リーブル(自由共同体)の延線上」のようなものなのです。

フランスでは、以下の選択肢があります。

つまり、フランスでは、共同体という形が法律上認められ「契約」が成立したという考え方が一般ですので、「契約」がうまくいくように結婚前に生活を共にするのはごく当然で、むしろ各々の家族もそれを望んでいるところがあり、「家同士の結びつき」ではなく、個人と個人の「契約的な結びつき」ということです。

しかし、裏返せば、心理的に相手に対する要求がより強くなるということでもあります。万が一、相手が「契約」を破るなど、お互いの求めていた「愛」の形を少しでも無視するようになったとき、「契約を破棄して簡単に別れてしまう」ことも珍しくありません。

友人夫婦がフランス婚を解消した理由

友人夫婦のジャン(仮名)とマチルド(仮名)がユニオン・リーブス(フランス婚)を解消した実話です。彼らは20年以上も籍を入れずに人生を共にしてきた熟年夫婦。

二人の子供も立派な大人となり巣立っていき、これから2人だけの夫婦生活を満喫しようとしていた時のことです。ある日、一緒にカフェでご飯を食べているときにマチルドがポツンと私にこぼした言葉に驚きました。

「もう、彼とは別れることにしたの」と私の心配をよそに、意外とあっけらかんとしています。「どうして?」と問いただすと、答えは「彼を尊敬できなくなったから…」でした。

彼女はこのとき「Mépris(軽蔑)」という言葉をしきりと使ったのが、私にはとても印象的でした。やはり気になるのは内縁関係を解消した後の生活ですが、彼女は働いていて独りで暮らしていける収入があったので全く問題なし。

以前、別の友達(フランス人)にフランス婚をはじめとする、結婚に対する意識を訊いたときに、「相手をひとりの人間として尊敬できなくなった(愛せなくなった)とき、どうしても妥協できなくなる」という答えを思い出したのですが、今回、パートナーとの別離を決めたマチルドは正にこのケース。

社会的あるいは経済的地位、ましてや世間の目などというものは二次元的なことでしかないので、二人の間で何らかのすれ違いやトラブルが生じてパートナーを尊敬できなくなると、もう、いてもたってもいられなくなり「別れる」となるのです。

そういう意味では、フランス人カップルは常に、相手への畏敬(いけい)の念を絶えず言葉にして出すことを惜しみません。

「モン・シェリー(ダーリン・ハニーと呼ぶ感じ)」「モナムール(私の愛おしい人)」「モン・べべ(私の赤ちゃん)」「マ・ピュス(『ちゃん』づけするイメージ)」など、日本人カップルには照れくさいワードばかりですが、フランスではすべて「愛情表現」として日常的に使われています。

フランスには民事連帯契約がある

2013年にフランスでは性別に関係なく婚姻することが法的に認められましたが、それに先立ち、1999年に施行された「民事連帯契約(通称PACS)」は、法律上、正式な結婚とユニオン・リーブルとの間に位置したもので、性別に関係なく、成年に達した個人が共同生活を営むために交わされる契約(フランス民法第515-1条)です。(注1)

では、具体的に、通常の結婚とPACS(パック)では「何が違う」のでしょうか?

まず、「結婚している夫婦」は、パートナーの死去後、住居を自動的に引き継ぐことができますが、以前までは「結婚していないカップル」は、死去した相手が住居権を持っていた場合、生き残りパートナーは住む家を失う(ホームレス)ことを余儀なくされていました。この問題は、PACSの制度がなかった時代、婚姻関係を結べない事情を抱えたカップルにとって非常に深刻だったのです。

次に、所得申告が結婚している場合と同様、共同申告できるようになったのも大きな利点です。以前までは、各々個々に申告していたため課税率が独身者と同様で共同申告者よりも高額でしたが、この法律が成立して軽減されました。

しかし、何よりもPACSを大きく成功させた理由は、役所への手続きが非常に簡単であることだと私は思います。何故なら、フランス人は自由をこよなく愛する民族だからです。

これは、合理主義国の皮肉な結果なのかもしれませんが、要するに、自由を求めれば求めるほど、契約なり規約なりといった法律上の制約が重くのしかかってきます。要するに、自由という形に表せられない関係を守るために、合理的に合法化した結果ともいえます。

「書類」大国!フランスで離婚する難しさ

そもそも、結婚するときでさえ、「出生証明書」「独身証明書」「慣習証明書」「婚姻および離婚証明書(再婚の場合)」など数種類の書類を必要とし、結婚式(教会ではなく役所での結婚の場合)には、カップル各人から2人の証人者をたてなければなりません。

そして、市長(パリの場合は区長)と証人者の前で署名して、初めて正式な夫婦として認められるのですが、このような過程を経て、やっと正式に結婚できたカップルが離婚するとなると、それはもう大変…。

フランスでは離婚するとなると面倒な手続きが多く、非常に難しいのです。まず、お互いの弁護士を立てなければなりません。ちょっと大袈裟ですが、どうして離婚しなければならないのかを裁判にかけられるのです。

それに伴い提出しなければならない必要書類の多さと、大変な手間が掛かることを知り「日本の制度で良かった…」と思ったことがあります。

日本のようにお互いが離婚を承諾し、離婚後の財産分与、子供がいる場合の養育費等の問題を当人同士が納得している場合であっても、フランスでは離婚届けにハンコを押して「はい、離婚成立です」と簡単にはいかないわけです。

それゆえに、フランス人は自由共同体(ユニオン・リーブル)やPACS(民事連帯契約)のように、正式な結婚よりも法律的にカジュアルな関係を好むのでしょう。

「ユニオン・リーブル」生みの親は有名作家

ちなみに、「ユニオン・リーブル」という言葉が生まれたのは、何を隠そう、あまりにも有名なフランス知的カップル「サルトルとボーヴォワール」からでした。

彼らは、真実の「愛」を守るために結婚を拒否したのです。このようなカップルの在り方は、まさしく自由を愛するフランスならではのこと。

しかし、私は、ボーヴォワールのように肉体的にも精神的にも独立した女性だからこそ成立したのだと思います。そして、現代ではその上に、経済的独立(特に女性側の)があってこそ、本来の理想的なユニオン・リーブルが成立するのでしょう。

第一は「愛」で「形式」は二の次

日本とは制度も意識もかなり違う「フランス式の結婚の在り方」を友人の証言や、実際に間近で見て推察してみましたが、今後、フランスに住んで、フランス人と国際結婚する可能性がある方は、以上のようなフランス人の結婚観を頭の隅に入れておくと、文化や風習による違いへの戸惑いや不安が軽減されます。

フランスに限らず、入籍しなくても「愛」を重視し長続きしているカップルも沢山いますが、自分自身や子供の生活が法律で保障される「形式」も大切だと感じる今日この頃です。

参考文献

  • 注1:PACS(連帯市民協約)に関して|在フランス日本国大使館