フランス北部を旅行したくなる
日本人の観光客には何故かあまり知られていないフランス北部。今回は、まさしくそのフランス北部、オー・ド・フランス地方(旧ピカルディー地方)のソム県にある街、サン・ヴァレリー・シュル・ソム(St-Valery sur Somme)と、そこを拠点に観察できる野生のアザラシをめぐるソム湾散策を紹介します。
朝9時半「ル・ウールデル灯台前」に集合
到着したル・ウールデル灯台(Phare le Hourdel)の前で待っていてくれたのは、なかなかハンサムで気さくなガイドのヴァランタン君。
ソム湾に住みついている野生のアザラシを観察しながら周辺を散策するという企画に参加者15人が集まりました。
8月のヴァカンスシーズンとあって、参加者はフランス人に限らず、ヨーロッパ各国から訪れている人たちも数名いましたが、ヴァランタン君はフランス語しか話しません。
でも、彼と一緒に歩いていると表情や動作で何を伝えたいのかよく解るので、特に問題なくアザラシ観察に向かいました。
果てしなく砂が広がる世界、砂、砂また砂…
イギリス海峡に面しているソンム湾の辺りは、ガレ(galets)と呼ばれる小石の海岸なのですが、なんと引き潮時には数キロにもわたる砂浜に変貌します。
その変貌時を利用して、アザラシをそっと見にいくわけです。「そっと」というのはなぜかというと、アザラシは野生の動物で当然人間が近寄ると逃げてしまいますし、その上、保護野生動物に指定されていますので、彼らの生息環境を汚染しないためでもあります。
いるいる、アザラシの群れ
突然、ヴァランタン君が「さて、ここからならよく見えるでしょう」と立ち止まったところは、ソンム湾から海水が川のように流れ込む浅瀬の砂浜。
ヴァランタン君が肩に担いでいた三つ又の望遠鏡を設置します。みんなで順番に中を覗くと、いるいる、約500メートル離れた河口の向こう側に、200頭余りのアザラシの群れです。ほとんどは、陽だまりの中、呑気そうに寝そべっていますが、中にはバナナのように反りかえっているのもいます。
ヴァランタン君の説明では、彼らはビタミンDの補充のため日光浴を必要とし、特にバナナのように腹を上にして反り返る姿勢をとるのは、全身の至るところに太陽の光を浴びるためとのこと。
時々、身体を前後に震わせながら砂浜をえっさら、えっさらミミズ這いして前進しているのが見えます。けっこう体力を使いそうな動きで何だか大変そうで気の毒…。
しかし、海水の中に入るや否や、その素早い動きに圧倒されました!陸地でのスローなミミズ這いが嘘のようです。
怖い、どんどん沈む砂地獄…
さて、次にヴァランタン君が説明してくれたのは「沈む砂」でした。「はい、ちょっと皆さん、立ち止まって見てください」とヴァランタン君がグループに呼びかけます。「今からちょっとデモンストレーションをお見せします」と言うと、ほんの小さな海水の溜まった砂地の上に立ちました。
彼が足を前後左右に動かした途端、ヴァランタン君の身体がどんどん沈んでいきます…。次の画像に写っている、リュックを背負ったヴァランタン君の足元に注目してください。あっという間に、膝下が3分の1ほど砂に隠れてしまいました。
これこそ知る人ぞ知る「沈む砂地獄」です。膝まで沈んでしまうと独りでは絶対に抜け出せなくなるとの説明を受けました。
実際に貝拾いに夢中になっていて砂にはまり込み、そのまま満ち潮になって命を落とす人もいるとのことなので、一人旅で訪れた際は十分注意してください…。
えっ?ほんとに食べられるの?この植物…
集合場所だったル・ウールデル灯台(Phare le Hourdel)が見えてきました。そろそろ、ソンム湾散策も最終場を迎えるのかなと思っていると、ヴァランタン君、またしてもみんなの注意を促します。
「皆さん、この植物を知っていますか?」砂浜のあちこちに咲いているほんの小さなオレンジ色の実を示し、「食べてみてください」と言いました。ほのかな苦みはあるものの、食べられないことはありません。
私は植物に詳しくないので日本語名は知りませんが、フランス語では「アルグジエ(L’Argousier)」という名で、酸っぱくないので実感は湧きませんでしたが、キウイやオレンジの40倍以上のビタミンCが含まれているのだとか!(写真上)
さて、次にヴァランタン君が示してくれた植物は、「サリコルヌ(Salicorne)」です。サリコルヌはソンム湾独特の海水植物のひとつ。
食べてみると塩辛い…。洗ってさっと湯にかけ、ニンニク、パセリと一緒にバターでしんなりするまで炒めるのが一般的な調理法。かなり塩辛いので塩を足すのは厳禁ですが、魚料理や鶏肉料理の付け合わせにピッタリです。(写真上)
もうひとつのソンム湾の代表的な植物は、通常「豚の耳(Oreilles de cochon)」と呼ばれている海水植物です。どうして「豚の耳」なのかというと、見ての通り、形が豚の耳のようだからです。食べ方は、先のサリコルヌとほぼ同様です。(写真下)
ちなみに、この辺りの草原は淡水と塩水が混じっているので、ここで草を食む放牧羊の肉は「プレサレ(Prés Salés)」という塩味がある羊肉として有名です。
プレサレと呼ばれている子羊の肉は、元来、ノルマンディー地方、モンサンミッシェル産のものが有名ですが、ソンム湾の子羊の肉は「エストラン(Estran) 」と呼ばれているプレサレ肉です。
こうして、ソンム湾ならではの食用海水植物の試食を終えて、「ソンム湾、野生アザラシをめぐる散策」は無事終了しました。全行程約2時間30分の充実した散策でした。ヴァランタン君、ありがとう! Merci Valentin !
ソンム湾・野生アザラシ観賞
TEL : (33) (0)3.22.26.92.30(要予約)
料金:大人13ユーロ/子供7~14歳7ユーロ
・海水の溜まった砂浜を歩くので、運動靴や海岸用のサンダル靴をお忘れなく!
ソンム湾の近くにはジャンヌ・ダルクが通った街がある
ソム湾に訪れたら、せっかくなので近くにある「サン・ヴァレリー・シュル・ソンム(St-Valery sur Somme)の街」まで足を運んでみてください。ここは、海水浴場やヨットハーバーだけじゃなく、中世から漁港都市として数々の観光スポットが点在する歴史がある街なのです。
街の歴史
この街の歴史はとても古く、すでに紀元前700年頃にギリシャ人が住んでいたとされています。その後、紀元52年ローマ人によって街は支配されますが、ゴロワ人(フランス人の祖先)との平和共同体制が数世紀にわたり続きます。
後に北方から襲ってきたフランク人によって街は支配され、1066年にギヨーム2世(のちのイギリス王ウィリアム1世)がこの地を統制します。
しかし、英仏2国を支配するという複雑さが、後の百年戦争へとつながります。街が活気を示し始めるのは宗教戦争後の16世紀の終り、17世紀に入ってからです。とりわけ18世紀に造船業が発達し、それに伴う商業発展とともに、街は北フランスの重要な漁港となりました。
ジャンヌ・ダルクが通った街道
百年戦争の際、イギリス領でもあったこの地にジャンヌ・ダルクは囚われの身となります。彼女は、この街を通ってルーアン(Rouen)まで連れて行かれて火刑となるのです。写真は、ジャンヌ・ダルクが通ったとされる街道の門。
百年戦争の悲劇のヒロインは、19歳という若さで処刑される最期のときに目にしたであろうと思われる景色を眺めると、とても感慨深いものがあります。
ソンム河沿いの堤防散歩道
2キロほど続く木組み歩道は、とても歩きやすい脚にやさしい散歩道です。ソンム湾と中世からの味わいある街並に挟まれるようにして伸びている堤防沿い散歩道。
目の前に広がる美しいソンム湾の光景をのんびりと眺めながらゆっくりと歩きながら、時間と疲労を忘れるリフレッシュタイムのひとときを過ごせます。
かわいい蒸気機関車ベル・エポック号に乗る
時間に余裕があれば、ぜひ、昔懐かし蒸気機関車に乗ってみてください。ベル・エポック号がサン・ヴァレリー・シュル・ソンム(St-Valery-sur-Somme)からル・クロトワ(Le Crotoy)まで、まさに皆さんを「ベル・エポック(古き良き時代)」に連れ出してくれます。
この汽車はノワエル駅(La gare de Noyelles)を出て、サン・ヴァレリー・シュル・ソンム、ル・クロトワ、そしてカイユー・シュル・メール(Cayeux sur Mer) と、ソンム湾をぐるっと回る、時速30kmの蒸気機関車です。サン・ヴァレリー・シュル・ソムとル・クロトワ間だけを利用することも可能です。
ベル・エポック号は要予約!
運賃:大人14.30ユーロ/子供(4~18歳)10.70ユーロ
フランス北部はゆったり気分で旅できる
北フランスのソンム湾とサン・ヴァレリー・シュル・ソムの街を紹介しました。フランスはパリだけではなく、各地方各々独特の味わいのある国です。もしも、時間とお財布に余裕があるなら、ぜひ、パリから少し離れる旅も満喫してください。手始めに、パリから近いフランス北部からはいかがでしょうか?Bon voyage au Nord de la France !