人望のない人と人望のある人との違い
今回は、「職場」を舞台に2タイプの人物を登場させて、具体的なシチュエーションごとに実話をもとに「人望のある人とない人との違い」を比較してみましょう。
M氏とS氏は中間管理職。営業所の所長として数十名の部下を抱えています。まずは、2人の人物像をチェックしてください。
M氏は、残念に思うほど部下から人望のない上司。「本当にこんな人っているの?」と疑いたくなるかも知れませんが、一切の誇張はありません。国宝級の人望の無さですが、調子の良さとゴマスリひと筋で出世してきたことは本人も自覚しています。
S氏は、部下から頼りにされている人望のある上司。人は良いけれど、決して要領は良くないタイプなので本社からは嫌われていますが、営業所内の部下からは「アニキ」のように慕われています。
以下、「嘘でしょ?」と思いたくなるエピソードと辛辣(しんらつ)な部下の反応や本音もすべて実際に自分の目で見て耳で聞いてきたノンフィクションです。
旅行中に部下が事故に遭ったと報告がきたとき
M氏の場合は、報告は受けても、対応はナンバー2の部下に任せて予定通り旅行を遂行する。休み明けに出社したときに、親しい部下に「もう、堪らない。旅行初日に連絡が入って、せっかくの夏休みが全然楽しくなかった…」と愚痴を漏らす。
しかし、楽しかったろうが、楽しくなかろうが、結果的には旅行の全行程をちゃっかりクリアしている。本人いわく「だって予定を変更したら、キャンセル料、取られるじゃない」とのこと。
部下のコメント
「別に早く帰って来たって何の役に立たないからいいんだけど、あまりにも無神経な言い方にイライラする」
S氏の場合は、家族を置いて、すぐに旅行を切り上げて帰り、そのまま会社に直行して事故の対応にあたった。待っていた部下たちに「新幹線に乗っているときに、次々と携帯に電話が入るから、隣に座っていたオバサンに注意されちゃったよ」と苦笑い。
連絡を受けた時点で、一大事だと瞬時に「判断」し、同行していた家族に事情を詳しく「説明」し、部下に電話で「指示」を出し、少しでも早く会社に戻る「手配」をして「行動」する。
部下のコメント
「所長の顔を見て安心した」「所長が的確な指示してくれたので、やっと動ける」
接待旅行に行ったら?
M氏の場合は、会社のお金でいける旅行は大好き。取引先の社長などに呆れるぐらい媚びへつらい、オヤジギャグを連発して、はしゃぎまわる。マシンガントークで相手がドン退きしていても、一向におかまいなし。
会社へのお土産は一切なし。理由は「あいつら、感謝するのは最初だけで、どんどん調子に乗って、お土産をもらえるのは当たり前になって来るから買わない」とのことだが、実際はメリットのない出費を避けたいだけ。
部下の反応
「聞いている方が恥ずかしくなる」「あれだけ喋り続けて、息継ぎはどうしているのだろう?」「恩着せがましいからお土産なんて要らない。お礼を言うのも面倒くさい」
S氏の場合は、調子よく相手に合わせられないので、接待旅行には苦痛を感じる。本来は酒豪だが酔っぱらって余計なことを喋らないように、接待旅行のときは殆ど呑まずに宴会が終わったら、さっさと部屋に戻って寝てしまう。
お土産は、必ず、全員に行き渡るように人数分を買って帰る。留守番をしている社員を労って自腹を切っている。部下たちが、お土産のお菓子などを、さっそく開けて和気あいあいと食べる景色を微笑ましく見ている。
部下の反応
「ええ?また温泉饅頭?もう飽きたけど嬉しい」「ねえねえ、今度はご当地のチョコレートとかクッキーとかにしてくださいよ」「ワンパターンでセンスがないけど、嬉しいよね」
大雪で交通が乱れて通勤が困難だったら?
M氏の場合は、雪のために全ての業務が混乱をきたして滞っているのを予測して「出勤しない」。「玄関のドアを開けたら、大雪で出られなかったので休みまぁ~す」と軽い調子で連絡が来る。
後日、腰を押さえながら出社してきて「もう、カーポートの雪おろしをしたら腰を痛めちゃってブロック注射まで打つ羽目になったよ…。あっ、今日も病院に行くので早退しまぁ~す」と、まるで会社の業務に関知しない。
部下の反応
「まっと、いいけどね。会社に来ても喋り倒しているだけで役に立たないから」「ちなみに自分は、朝4時に家を出て会社まで5時間かけて歩いて来たんですけど…」「ちっ、雪国だったら、冬の間ずっと休みでラッキーだったのに…」
S氏は北国出身のため、関東地方の都会の雪でも甘く見ない。事前に雪かき用のスコップを仕入れて、大雪警報が出たら会社に泊まり込む。部下に指示を出しながら、先頭に立って駐車場の雪かきをする。
「北国の人は、毎年、この雪と闘っているんだ。東京モンも、たまにはイイ勉強になるべ?」と言いながら、会社の近隣に住んでいる一人暮らしの高齢者の家の前まで、雪かきをする。子どもの頃から鍛えられているので足腰が丈夫。
部下の反応
「所長が汗だくになって雪かきしているのに、自分だけ帰れないでしょ」「なんか大変な状況でもイキイキしながら動くから、自分もヤル気が湧いてくるんだよね」
家庭でトラブルが起きたら?
M氏は、「家の風呂釜が故障した」と妻から連絡があれば、すぐに早退して家に帰る。「今日のうちに修理してもらわないと、お風呂に入れないもんね」と大慌て。常に仕事よりも家庭を優先。
部下の反応
「子どもが突然、病気になって休んだときに『有休は認めない』って怒ったくせに」「仕事はしないくせに、自分のこととなったら本当にフットワーク軽いよな」
S氏は、家族が大病をして入院や手術をしたときでも、いつもと変わらない様子で仕事をしている。たまに休みを取ると、部下たちは「何があったのだろう?」と不思議に思うほど、普段から滅多に休まない。
自分自身は、家庭の事情をあまり話さないが、部下の家族のことは常に心配していて「子どもの運動会や入学式など予定のある人は早目に言って。シフトを組むから」と配慮してくれる。
部下の反応
「家庭が大変なときくらいは教えて欲しい。いつもの調子で甘えちゃうから」「家の子どもの年齢まで知っていて『そろそろ受験で金がかかるな…』とか言われて驚いたけど気に掛けてもらって嬉しかった」
部下が残業していたら?
M氏は必ず定時に帰るので、残っている部下には『お願いしまぁ~す』と朗らかに声をかけていく。「遅くまで、ご苦労様で~す」と労うこともあるが、基本的に褒めたり、お世辞を言うのはタダなので言葉だけは惜しまない。
仕事上でトラブルがあった場合でも、極力、面倒くさいことはすべて部下に押しつける。「解決能力がない」という自覚はあるので、いつのまにか消えているパターンが多い。
部下の反応
「しかし、お気楽な人だよね」「誰もアテにしてないことに気づいてないところが怖い」
S氏は、基本的に毎日のように残業をしているが、自分より遅くまで残って仕事をしている部下には夕飯の出前を取ってあげる。
就業時間ではないので、S氏とフランクに世間話をしたり、冗談を言ったりプライベートな話題も出るので、部下たちは楽しくて差し迫った仕事があるわけでもないのに居残っていることも多い。
部下の反応
「お腹空いた~!ご飯食べにいきましょうよ」「炒飯に餃子をつけてもイイっすかね?」
本社の上司が営業所に来たら?
M氏は恥ずかしいほどテンションが高くなり、はしゃいで身振り手振りを交えて営業所を案内する。部下たちとも仲良くコミュニケーションを取れていることをアピールする。
取引業者の社長が来社したときも同様で、話し出したら止まらず、相手が辟易(へきえき)して帰るまで喋り続ける。自分のことばかり話して、相手の話をほとんど聞かないタイプだがギャグセンはかなり高い。
部下の反応
「よくあんな調子で『自分は本社と闘ってきた!』なんて自慢できるよな」「あの人のおかげで、お得意様を失わないと良いけれど…」「鼓持ち」「腰ぎんちゃく」
S氏は本社から視察が来ると聞くと、部下が散らかしたものを片付け始める以外は、通常業務をして上司を特別扱いしない。歯の浮いたようなお世辞も言えない。
取引業者に対しても話を笑顔で聞いていることが多く、自分からはあまり込み入った話はしない。
部下の反応
「本社に対して無関心すぎる態度をとって大丈夫かな?」「もうちょっと上手く言えないのかな…?」
部下が仕事でミスをしたら?
M氏の場合は、すぐに本社に報告して始末書を書かせる。自分の評価を下げる部下を切り捨てるのは得意。大きなミスをしたり、自分に反抗的な態度をとる部下は目障りなので他の営業所に転勤させる。
雄弁に長々と説教をするが、ほとんどがテレビのワイドショーにコメンテーターとして出演している著名人の受け売り。自分の弁舌に酔いしれている。
部下の反応
「部下を庇(かば)う気持ちが1ミリもない」「あの人に睨まれたら、通勤不可能な遠方の営業所に飛ばされるから気をつけないとね」「ああ、早く定年になってくれないかなぁ」
S氏の場合は、取引会社からのクレームが入れば、まずミスをした部下から事の顛末(てんまつ)を詳しく聞き、菓子折りを持って部下を連れて先方に謝りに行くが本社には報告しない。「俺は謝りザムライだから…」が口癖。
また書類上のミスであれば、「すぐにやり直せ!」と叱りながらも、自分も一緒に修正を手伝うために残業する。
部下の反応
「謝りに行った帰りに夕飯をご馳走してくれて『お前、気をつけろよ…』と、たったひと言あっただけだった。『この人に、もう頭を下げさせたくない…』とつくづく思った。反省します」
「人望ある・ない」どっちの人が良いか?
「人望がある」「人望がない」というのは「他人からの評価」で決まるものなので、Mさんの場合は少し特殊なタイプですが、まったく人望はなくても自分と家族のことだけを大切にしているのですから、本人的には常にハッピーなわけです。Sさんの場合は、仕事や部下のことを想うが故に、家族に負担をかけていました。その人のキャパシティーの問題もあります。
部下の立場から考えると、人柄の良い上司と出会えれば、環境的にも心情的にも良いことは確かですが、それだけでは判断できないのが社会というもの。
たとえば、人望のない「Mさんの部下たち」にとって、「共通の敵はMさんだけ」なのです。Mさんは誰から見ても立派な「悪者」。仕事が巧く進まなくても思うような回答が得られなくても、責任はすべてMさんに押しつけていれば事が済むのです。
皆が共通して「Mさんが無能だから」「Mさんが人格的に尊敬できないから」「Mさんは、自分の保身しか考えていないから」と悪口、陰口を言うことによって部下たちは団結していくのです。
ところが、「人望のあるSさん」のような人が上に立つと、文句を言えない部下たちは不満の矛先を同僚に向け、内輪揉めが起きたりすることもあります。Sさんに気に入られようと抜け駆けする人も出てきます。
また、何でも親身に受け止めてくれるSさんに対する甘えも出て「Sさんだったら、多少のミスをしても庇ってくれる」「事情を話せば、わかってくれる」と仕事に対する緊張感を失くしてしまう危惧もあります。
どちらのタイプも視点を変えると見え方が変わります。表面的なことで安易に「あの人はこうだ」などと決めつけることなく、まずは自分自身を見つめ直してみることも大切です。