ウィーン美術史美術館・1日中飽きないアートに浸れる名所

ウィーンにある美術史美術館を見学してきました。ピーテル・ブリューゲルによるバベルの塔を始めとする、カラヴァッジョ、クリムト、ルーベンスなど、ヨーロッパ各地の著名な画家の作品を楽しめるウィーン・美術史美術館の見逃せない魅力を紹介します。

ウィーンの美術史美術館でアートに浸る

ウィーンという街の名前を聞いて、どんなことを思い浮かべますか?

やはり、パッと思い浮かぶのは「音楽の都」でしょうか。かつてモーツァルトやベートーベンなど、著名な音楽家が活躍した街であり、現在でもコンサートホールや歌劇場もたくさんあります。

はたまたカフェ文化でしょうか。ウィーンの大通りには王室御用達の菓子店が軒を連ねており、訪れておきたいカフェが目白押しです。特に、オーストリアの美しい皇后エリーザベトが愛したザッハトルテは、ぜひ本場で食べてほしいスイーツです。

それとも、宮殿や大聖堂など古い建築でしょうか。中世ではハプスブルク家の帝都として栄えており、シェーンブルン宮殿はハプスブルク家歴代君主の離宮として使われていました。マリー・アントワネットの母親であるマリア・テレジアも、ハプスブルク家の出身です。

この時点で見どころいっぱいのウィーンの街ですが、実はこれら以外にも楽しめる観光スポットがあります。それは、ウィーンが誇る大規模な「美術史美術館」です!

美術史美術館へ行く

美術史美術館は地下鉄カールスプラッツ駅や市電ケルントナー停留所のすぐ近くにあります。駅や停留所はウィーン観光の拠点にもしやすく、見どころも沢山あります。

例えば、世界的に有名なウィーン国立歌劇場もありますし、ケルントナー通り沿いにはお土産屋さんや有名なカフェがずらりと並び、ファストショップやレストランもあるので歩きながら観光するにはもってこいのエリアです。ケルントナー通りはウィーンのメインストリートなので、滞在中に訪れるチャンスはあるでしょう。

ケルントナー通りの近くにあるウィーン国立歌劇場を右手に見ながら約3分歩くと、左手に美術史美術館が建っています。美術館の向かい側には自然史博物館があり、対になっています。

ちなみにこの自然史博物館の内容を充実させたのにはマリア・テレジアの娘の一人、不遇の皇女マリア・アンナ・フォン・エスターライヒという方も関わっていました。気になる方はぜひ調べてみてくださいね。

美術史美術館について

世界三大美術館の一つに数えられる美術史美術館ですが、絵画コレクションが展示されているのは1階で、2階には貨幣コレクションが展示されており、博物館の要素も兼ね備えています。

古代から19世紀までのヨーロッパの美術品が揃っているコレクションのメインは、ハプスブルク家の歴代君主が収集した作品です。もちろん、ハプスブルグ家の面々の肖像画も展示されています。歴史にある程度詳しければ、面白く鑑賞できるでしょう。

どの作品も日本にいてはなかなかお目にかかれないようなものばかりですし、繊細すぎるため美術館の外に出せない、いわゆる「門外不出」の作品もあります。できれば全部じっくり見たいところですが、展示されている作品数から考えると、丸1日費やしても無理です。

ジャンル・国・年代ごとに作品が集まって展示されているので、自分の好みから見たいものを絞って計画的に鑑賞したほうが、限られた旅行時間を有効活用できます。
日本語の音声ガイドを借りられるので、ぜひ美術館を堪能したい方はスタッフに訊いてみてください。

いよいよ美術館の館内へ

建物正面はヨーロッパ風なデザインで、いくつもの彫刻が並んでいます。美術館は3階建てですが、一番下のフロアは0.5階。そこから1階、2階と数えるようになっています。0.5階はロッカーと荷物預かり所、トイレがあります。重厚感ある扉を開けてすぐの所に、チケット売り場があります。

扉の向こうには階段があり、見上げたところにある彫刻が神々しく感じます。大理石がふんだんに使われているフロアは、高級感が溢れていてウットリとしてしまいました。階段をのぼっていくと、総数50とも言われる展示室が並んでいます。

展示室の中へ入る前に、巨大なギリシャ彫刻がいくつも出迎えてくれます。ギリシャ神話が分からなくても、彫刻の高い技術力と美しさにため息が出ることでしょう。写真撮影は出来ますが、彫刻は見上げるほどの大きさなので自撮りは至難の業です。

それでは、ジャンルごとに見どころをご紹介しますね。

超有名バベルの塔も「ブリューゲル」

建設途中のままにされた側面、地に伏せる人、人々の生活が感じられる描写の細かさ…旧約聖書の「創世記」内に登場する、バベルの塔を描いています。老ブリューゲルの作品の中でも特に有名な『バベルの塔』が、美術史美術館で観られます。

この作品を描いたピーテル・ブリューゲル(老ブリューゲル)は、16世紀ごろフランドル地方で活躍した画家です。庶民の日常を切り取ったものや聖書の一部などを描き、特に農民を題材にした作品を多く描いていたため、農民画家と呼ばれることもありました。日本には作品がないので、海外に出向くか展覧会で日本に来るのを待つかしか観る方法がありません。

現在お目にかかれる老ブリューゲル作品は約40点で、一度に何点もの老ブリューゲルの絵を観られる美術館はそう多くありません。現存する40点の内、美術史美術館には12点収蔵されており、世界最大の収蔵数を誇っています。

老ブリューゲルが描いた現存する『バベルの塔』は2作品のみで、美術史美術館に収蔵されているのは中期に制作された1作目です。また、初期の三大作品と呼ばれる作品のうち『謝肉祭と四旬節の喧嘩』『子供の遊戯』を観られます。彼の画家としてのキャリアを知るにはぴったりの作品が揃います。

老ブリューゲルの他にもまるで緊迫した瞬間を切り取ったようなかのように描いたことで有名なカラヴァッジョ作品も美術史美術館で観賞できます。

ちょっとグロテスク「カラヴァッジョ」

カラヴァッジョは16~17世紀イタリアで活躍した画家なので、彼の残した作品の多くは故国にあります。彼が画家としての修業をしたミラノや、罪を犯して逃げ出したローマには特に多くの作品があります。

生首の髪の毛をわしづかみにした、兵士には見えない少年。右手には剣が握られており、首から滴る血から今しがた少年が切ったのだと分かります。カラヴァッジョの『ゴリアテの首を持つダビデ』は、旧約聖書の内容がテーマになった作品です。

ペリシテとイスラエルの戦争でゴリアテという巨漢の兵士が40日間に渡って、朝夕とイスラエルの兵士たちを辱めていました。イスラエル兵は恐れをなしましたが、たまたまイスラエル陣営を訪れていた羊飼いのダビデがゴリアテの退治に名乗り出ました。ゴリアテは突進しますが、ダビデが石を投げつけ失神させます。ダビデはゴリアテの剣を使って首を切り、とどめを刺しました。

最後の止めを刺したシーンを描いたのがカラヴァッジョの『ゴリアテの首を持つダビデ』になります。

カラヴァッジョは素行が悪く、活動拠点としていたローマを追われたのも人を殺めてしまったからで、『ゴリアテの首を持つダビデ』はナポリへ逃げる前後に描かれたものと推測されています。

敵を打ち取ったにもかかわらず誇らしそうではないダビデの表情や、眉間にしわを寄せ苦悶の表情を見せるゴリアテ…聖書の話なのに、ぼんやりと暗闇の中から浮かび上がるよう不気味に描かれているのは、カラヴァッジョが裏社会で見てきた人間の闇を反映させた演出なのでしょうか。

美しい風景画

自然を描いた作品も見どころです。絵画集めは権力者だからこそ出来ることでしたが、彼らも権力者だからこその気苦労もあったのでしょう。もしかすると、仕事や結婚に疲れたとき、風景画を眺めて癒されていたのかも…そう考えると歴史上の人物にも親近感を覚えますね。

美術史美術館にはミュージアムショップがあり、画集やレプリカはもちろん、アクセサリーやスカーフなど様々なものを販売しています。中には風景や植物といった美しい自然を描いた作品のポストカードもあり、お土産にオススメです。自分の気に入った作品を買ってコルクボードに張り付ければ、丁度いい癒しアイテムになります。

アートを楽しんだらカフェで一息

ウィーンのアートを楽しんだあとは、カフェ文化を楽しみましょう!美術館の最上階にあるミュージアムカフェで一息つきながら今後の予定を確認することも、次はどのエリアを鑑賞しようか考えるのも出来ます。

大理石の内装で、床もモダンなデザインになっています。重厚感のあるカウンターで飲み物とケーキをチョイスしたら、吹き抜け部分に沿った深紅のソファに座ってのんびりしましょう。カフェにいれば、まるで自分までもがアートの一部に溶け込んだような気分になります。

ウィーンの美術史美術館は1日中飽きない

美術史美術館の莫大なコレクションは、幅広い地域・ジャンルを網羅しているにもかかわらず質の良さはピカイチです。コレクションの期限は16世紀まで遡り、歴代君主の収集品が追加され続けてきました。

ルーベンスやクリムトといった著名な画家の作品はもちろん、あまり知られていない作品も一緒に見ることで、美術史の流れを掴めます。まさに「美術史美術館」という名前にぴったりな作品たちに出会えます。

ウィーンでアート、というのがあまりピンとこない人でも、美術史美術館はとても楽しめるスポットです。絵画の他にも彫刻や昔の貨幣など、興味深いものばかりありますので1日中いても飽きませんよ!