一生の宝物になる"子供の絵本"おすすめ
今回は、娘たちが幼かった頃に読み聞かせをしていた絵本の中から、身近にいる大切な人や当たり前のことに感謝の想いが湧いてくる物語の本をピックアップしてご紹介します。子どもの感性を刺激するだけじゃなく、毎日を忙しく過ごす大人の心にも温かさを届けてくれる名作の絵本ばかりですよ
見たもの聴いたものを純粋にとらえて、疑問に感じたことや感動したことには素直に反応するピュアな子供たちの感受性をさらに育み、映画やテレビ等とは違って、各々に風景や登場人物の声などを頭に思い描くことができる点も絵本の大きな魅力ですよね。
昔読んだ記憶が蘇る懐かしい名作、民話、可愛らしく独特の色使いやタッチで描かれたイラスト、想像力を働かせる不思議な世界観を体験できるストーリーなど、これからも親から子供、子どもから孫へと読み継がれていく絵本のおすすめ作品を集めました。
親子一緒に楽しめて子供の成長にも一役かってくれる子供の絵本を、幼児向け、小学生向けに分けてご紹介いたします
幼児向けの絵本おすすめ
1.「ねないこだれだ」
せなけいこ/作・絵
初版/1969年
出版社/福音館書店
だらんと手を伸ばしたおばけの絵が描かれた黒い表紙を見た瞬間から子供たちの好奇心が刺激され、絵本の世界に釘付けです。
知らないもの、怖いものに興味津々な気持ちを裏切らないシンプルなお話は、最後に衝撃的な結末を迎えます。『この絵本が怖かった‥』と思い出に残っている大人も多いのでは?読み聞かせをしているうちに、大人もギョッとして子供と一緒にじわじわ恐怖心が湧いてきます。
児童書、紙芝居、挿絵などで100冊以上の絵本を世に送り出している、作者のせなけいこさんの名作の中でも、特にシンプルながらもインパクトのある”おばけの絵本”は定評があります。
『「怖い」という感情をむやみに刺激するのは心配』という声もありますが、「楽しい」「嬉しい」という感情を育てる大事な要素として「怖い感情」が用いられた作品ですよ
2.「からすのパンやさん」
加古里子(かこさとし)/作・絵
初版/1973年
出版社/児童書出版 偕成社
からすのパン屋さんのお家に生まれた4羽の赤ちゃんのお話。夫婦はパンを焼きながら赤ちゃんが泣いたらパンを放ってお世話をしていると、パンは黒焦げになって売れなくなり貧乏に…。子供からす達は黒焦げパンをおやつに大きくなって、それから‥。
『まだ文字がわからない子供に理解できるかな?』と、気になるほど文章の量は多いですが、見開き一杯に描かれた80種類ものパンとカラスたちの仕草がユーモラスに描かれていて引き込まれます。この絵本を読んでパンを買いに行きたくなった人は多いはず。
続編も発行されていて子供と共に楽しみたい大人も買っています。作者の加古里子さんは日本文化を子供にも解りやすくユーモラスに取り入れながら、斬新な表現で外国絵本にも十分に対抗できる作品を作り上げています。児童文学の重鎮ですが、子供の心を失っていない心意気が感じられて読んでいて嬉しくなる作品です。
3.「はけたよ はけたよ」
神沢利子/作
西巻茅子/絵
初版/1970年
出版社/児童書出版 偕成社
一人でパンツを穿けない”たつくん”は、何回やってもできなくて嫌になり裸のままで外に飛び出してしまいました。すると『しっぽが無い』と動物たちにジロジロ見られて笑われて‥。
一人でなんでもやってみたいイヤイヤ期の男の子と、それを見守るお母さんと動物たちが微笑ましいです。できなかったことが出来たときの嬉しさを味わえる楽しい絵本です。
作者の神沢利子さんは日本の児童文学の重鎮の一人で、日本の良さを表現するものから外国絵本の訳まで幅広い活動をしています。
4.「しろくまちゃんのほっとけーき」
わかやまけん/作・絵
初版/1972年
出版社/こぐま社
カラフルな色とリズミカルな言葉が子供たちを夢中にさせる「しろくまちゃんのほっとけーき」は、しろくまちゃんが、お母さんと一緒にホットケーキを作る絵本です。
まず「ふらいぱんと、ぼうるとおさら」を揃えるところから描かれていて「何が始まるんだろう」とワクワクさせます。材料を混ぜてしろくまちゃんもお手伝い。圧巻なのがホットケーキが焼ける12行程を「ぽたあん」「ぷつぷつ」「ふくふく」などの擬音と共にページ見開きで描いていて、目の前でホットケーキを焼いている感覚が味わえます。
作者の「わかやまけん氏」は、グラフィックデザインの世界から絵本作家となり、独自のシンプルでグラフィックな特性も生かしつつ、詩的な作風で誰にも真似できない世界を作り上げており、日本で創作絵本のジャンルの確立に多大なる貢献をしています。
豊かな表現力に感化されて、読み終わったら丁寧にホットケーキを作りたくなりますよ
5.「ゆかいなかえる」
ジュリエット・キープス/作・絵
いしいももこ/訳
初版/1964年
出版社/福音館書店
表紙には湖水を思わせるシックなブルー地に、4匹のユーモラスな表情を浮かべた「かえる」たちが描かれていて、ページを進ませてもシックな色調は変わりません。
影絵のように黒色が効果的に印象的に使われており、それによって「かえる」たちの表情や行動が引き立つから不思議です。大きな魚にパクっと食べられた蛙の卵の中で難を逃れた4個の卵から、おたまじゃくしになってかえるになって成長していく物語。かえるたちの誰が速く泳げるか競争したり、カタツムリの隠しっこをして遊ぶ様子が楽しく描かれています。
子供の頃を懐かしみ子供と暮らす楽しさを噛みしめる人も多いのでは?
作者のジュリエット・キープスはロンドンに生まれ、イギリスのペックマン・ブライトン美術学校を経て、アメリカのインスティチュート・オブ・デザインを卒業しています。
『生きものたちの動くフォームこそ、何よりの絵の教師』
ジュリエット・キープスの言葉
この言葉の通り、生き生きと躍動感にあふれるかえるたちを私たちは楽しむことができます。
訳者の石井桃子氏は児童文学の重鎮中の重鎮で訳した本は数知れず、ミッフィーちゃんで知られているディックブルーナの絵本や、トム・ソーヤーの冒険、自書では「ノンちゃん雲に乗る」「ことらちゃんの冒険」など馴染の深いものばかりです。
小学生向けの絵本おすすめ
1.「すーちゃんとねこ」
さのようこ/作
初版/1973年
出版社/こぐま社
作者の佐野洋子さんは絵本作家としてだけではなく作家、エッセイストとしても活躍して、170以上もの作品を世に送り出しました。画力の高さとセンスの良さもさることながら、ウィットに富んだ視点と子供の心を失っていない語り口に引き込まれます。
「すーちゃんとねこ」は初期の作品で、今見てもモダンな作風と色遣いが新鮮にうつり、読んでいると胸にギュッと来る感覚があります。
昔友達に意地悪した人、意地悪された人、今お友達と仲良く遊べている子、ついケンカしちゃう子も没頭してしまう魅力があります。
木登り、猫、風船と子供が大好きな物ばかりに囲まれながら、子供の心にあるワガママを存分に描き出していて、それを許せる優しい気持ちになれる絵本です。
2.「バオバブの きの うえで A Child Abandoned In Djole」
ジェリ・ババ・シソコ/語り
みやこ・みな/再話
ラミン・ドロ/絵
初版/1996年
出版社/ 福音館書店
アフリカ・マリの民話でバンバラ族の語り部から聴き取ったお話を絵本にしたものです。
ジョレという村に男の子が生まれましたが、その後、お父さんとお母さんが相次いで亡くなってしまったため、村人は「災いを招く不吉な子供」として男の子を森の中へ捨ててしまいます。森に育てられながら成長した男の子は自分の生い立ちを知り、バオバブの木に登ってジョレ村に雨が降らないように歌を歌い…。
絵はアフリカ、マリ出身の画家によるもので、硬筆のペンで人物や風景がデッサンのように描かれ、本来は祝福されるはずの子供の誕生が不吉なものとして扱われた内容を、日本では感じられないリアルな空気感を持って伝えています。
異文化に触れられるだけではなく、語り部による伝承で昔話が伝わっている神秘さも感じられる、子供に伝えたていきたい絵本です。
3.「ずーっと ずっと だいすきだよ」
ハンス・ウィルヘルム/作・絵
久山 太市/訳
初版/1988年
出版社/評論社
子供が成長していく中で『何かを失いたくない』と、強く願うときは必ずやってきます。いくら努力しても、無敵に思える親きょうだいに頼っても神様に祈ってもどうにもならなくて、無力さに涙さえ出なくなったときに、この絵本は一筋の救いをもたらしてくれます。
大好きな人、大好きな犬や猫、小鳥、金魚、昆虫などと暮らして楽しく思いやりを持った時間を過ごす幸せを知り、普通の日常の大切さを教えてくれる絵本です。
淡くモダンな色調で描かれた絵柄に目を奪われながら読み進めると、「ぼく」は犬の「エルフィー」との思い出を語っています。エルフィーとのささやかな楽しい時間を過ごしてきたことを描きつくしていて、悲しい気持ちでこの絵本を読んでいる人も心の奥が癒されていくことでしょう。
4.「てがみをください」
山下 明生/作
むらかみ つとむ/絵
初版/1976年
出版社/文研出版
表紙には少し拗ねた表情のカエルの姿があり、古き良き時代の日本を感じさせる絵柄です。
「ぼく」が郵便受けを覗いてみると、いつの間にかカエルが住み着いていて、手紙を無断で読んだり郵便受けを住居にして模様替えをしたり…、自由気ままに勝手な行動をするカエルをなぜか憎めず手紙の書き方を教えてあげると、ある日、カエルは姿を消し…。
読み終わると『あのときこうすれば良かった』『こういえば良かった…』という気持ちがふつふつと湧いて切なくなるお話ですが、「ありがとう」や「ごめんなさい」など、今、言っておくべきことは、ちゃんと相手に伝えようと思わせてくれる絵本です。
5.「しろいうさぎとくろいうさぎ」
ガース・ウィリアムズ/作・絵
松岡 享子/訳
初版/1965年
出版社/ 福音館書店
森の中で毎日楽しく暮らして遊んでいる「しろいうさぎ」と「くろいうさぎ」のお話です。
抑えた色調の中で白いうさぎと黒いうさぎの身体を覆うふわふわした毛や、背景に至るまで丁寧に描き込まれており、その分 、うさぎたちの表情が際立って来ます。手を取り合ううさぎたち、手をつないで野原を歩くうさぎたちに心癒され、内容は子供向けの訳と大人向けの訳があり、両方取り寄せると親子で楽しめます。
作者のガース・ウィリアムズはアメリカの絵本を得意とするイラストレーターでとても慈悲深く、不幸な身の上の女性を放っておけなかった人でもあり、4回もの結婚を繰り返していますが、全ての妻と子との交流は途切れなかったという逸話が残っています。
アメリカで出版されたときはウサギの色の白と黒から異人種間結婚を示唆するとされ、図書館から撤去されたという一方的な批判も受けました。これに対しウィリアムズは以下のように発言しています。
『僕の絵本は子供に向けて描いていない。これはただ柔らかいフワフワした愛に関する物語であり、憎しみのメッセージは隠されていない』
ガース・ウィリアムズ
原題は「The Rabbit’s Wedding」となっていることからも解るように、うさぎの結婚が描かれている、夢のある秀作です。
6.「おやすみなさいのほん」
マーガレット・ワイズ・ブラウン/作
ジャン・シャロー/絵
いしい ももこ/訳
初版/1962年
出版社/福音館書店
子供たちがワクワクしてなかなか眠れない夜にピッタリの絵本です。
お日様は地球の裏側に隠れて、外は暗くなり、小鳥も魚もヤギも眠りにつきます。自動車も飛行機もエンジンを止めて、まるで眠っているように静かになります。『ねむたい○○たち』というフレーズが眠りを誘い、子供たちもいつの間にか眠くなって、天使に見守られて眠り静かな聖夜を過ごします。
7.「おとうさん だいすき」
司 修/作・絵
初版/1975年
出版社/文研出版
作者の司修さんは小説家、画家としても高名で、宮沢賢治の童話では独創的で幻想的な挿絵を描いています。「おとうさん だいすき」では優しいタッチで物語が描かれています。
いつも仕事で忙しく家族のために働いてくれている、お父さんに『ありがとう』の気持ちを込めながら読みたい絵本です。
動物たちが集まってゾウやカバ、シマウマ、ライオン、サルが、お父さんの自慢をします。ゾウくんのお父さんは自転車に乗れます。サルくんのお父さんはなんと飛行機を操縦して世界を飛び回っています。『お父さんは何に乗れるの?』と、聞かれても答えられなかったクマくんが、お家に帰ってお父さんに訊ねたとき、一瞬でクマくんを喜ばせるとても素敵な「答え」が…。
この絵本を読んだ子供たちは、きっとクマくんの真似をしてお父さんに肩車をせがむようになり、パパとお子さんがスキンシップをとるきっかけになるかも?
8.「こころのやさしいかいじゅうくん」
マックス・ベルジュイス/作・絵
楠田 枝里子/訳
初版/1978年
出版社/ほるぷ出版
マックス・ベルジュイスはオランダの絵本作家で、大胆な構図と色遣いが子供だけではなく大人まで虜にしています。2004年には絵本の小さなノーベル賞と呼ばれる国際アンデルセン賞を受賞しました。
静かで平和な町に「かいじゅう」が現れて麦畑を荒らしたから、ひっくり返ったような大騒ぎに。おとなしく捕まったかいじゅうは町長などの思惑により軍隊で訓練を受けたり、檻に閉じ込められて見世物にされそうになったり大変です。でも、かいじゅうは訓練が苦手で草を食べてサボってばかりで、檻から出たくて檻ごと引きずって逃げ出す始末…。
町長はここで気が付きます、かいじゅうがとても優しいことに。それからのかいじゅうは一日一回火を吐くだけで街中の電気を作り、たくさんのお湯まで沸かしてくれて、町人たちは冬でも暖かく暮らせるようになり…。
かいじゅうくんと人間が、お互いに対して抱いていたイメージが変化していく過程が描かれています。読み進めていくにつれ、優しい気持ちになってケンカ中の相手とも仲直りしたくなるかも
9.「てぶくろ」ウクライナ民話
ウクライナ民話/作
エウゲーニー・M・ラチョフ/絵
内田 莉莎子(うちだ りさこ)/訳
初版/1950年
出版社/ 福音館書店
大雪が降る帰り道を急いでいたおじいさんは、森の中で手袋を落として気が付かないまま行ってしまいます。その手袋を見つけたネズミが、ちゃっかり住み着いてしまうところが子供も大人もワクワクするポイント。
幼いころ狭い場所、すみっこ、押し入れの中に隠れた元ちびっこは多いはず。カエルが跳ねて来て仲間入りし、手袋の端から顔をのぞかせている様子が可愛くてたまりません。
「くいしんぼネズミ」、「ぴょんぴょんカエル」など愛称がついているのも面白く、次にやって来るのは、「はやあしウサギ」、それから「おしゃれぎつね」「はいいろおおかみ」「きばもちいのしし」「のっそりぐま」たちです。
『こんなにたくさんの動物が入る手袋を持っているおじいさんは巨人なの?』と子供たちから質問されそうですが、一切、そのことには触れないまま物語はラストへ向かいます。
雪が降る寒い森の中、わずかの間でも動物たちは暖まることができたのかなと思いを馳せ、暖かい部屋で過ごせる喜びを感じられます。絵柄は北欧ウクライナらしく抑えた色調の中にモダンさが感じられる素敵な絵本です。
10.「天の火をぬすんだウサギ」
ジョアンナ・トゥロートン/作・絵
山口 文生/訳
初版/1987年
出版社/評論社
北米インディアンに古くから伝わる「火の起こり伝説」に動物の話を絡めた楽しいお話です。
ウサギの表情がとにかくユーモラスさで、子供たちはウサギの行動にも釘付けに!賢いウサギが天の人たちから、まんまと火を盗み出すところはドキドキしながら応援してしまうはず。
火を盗まれて怒った天の人たちが雨やみぞれ、雷や雪まで降らせても、ウサギが工夫して作った松ヤニ付きの羽飾りに燃え移った火は消えません。森の動物たちも協力して火を運ぶリレーに参加すると、リスのしっぽは丸くなり、カラスはススを被り黒くなり、シカのしっぽは短くなってしまったエピソードが面白いです。それからの動物たちは暖かい夜を過ごせて、厳しい冬を越せるように…。
北米インディアンに伝わる原話では、人間のためにコヨーテとビーバーが魔物から火を盗んでくる展開で、火という神聖なものに対する畏怖の気持ちと、動物と人間、自然との共存を教えとしていました。
愉快なウサギに代表される動物たちの躍動感に、改めて大自然の中で生かされていることを感じて、暖かい冬の夜を過ごせることに感謝したくなる楽しい絵本です
11.「はるかな島のものがたり」
山下明生/作
宇野亜喜良/絵
出版社/童心社
神々しいものに触れる感覚を味わいたいときにイチオシの絵本です。
玄界灘に浮かぶ別名「海の正倉院」と呼ばれる「沖ノ島(おきのしま)」をめぐる、歴史と自然を感じられる名作です。天照大神の娘、キリノヒメの姿を見た者は誰もいない、見てもまぶしくて岩になってしまう…、という言い伝えを耳にしたウミドリは女神に会いに行き…。
実在する九州の近海に浮かぶ小さな島に伝わる物語で、今まで誰もお目通りが叶わなかった姫たちが、ウミドリやウミガメの活躍で人々に感謝され祀られるまでのエピソードが神秘的です。
女神が宇野亜喜良の絵で神々しく美しく描かれ、天照大神のエピソードも踏まえながら壮大な話の展開が待ち受けています。海からも陸からも遠い「はるかな島」に思いを馳せて、神話が生きている国に暮らしていることを実感できる、これからも子供に伝えていきたい名作です。
小さな子供には文字の分量が多いのですが、ゆっくり時間をかけて読んであげると、絵からも雰囲気を感じ取ってくれるはず。