丁寧な手紙の前文で好印象を残す
最近は手紙を書く機会が減ったと言っても、挨拶状やお礼状などは気軽に送れるメールよりも手紙の方が、手書きの分だけ丁寧な印象を与えます。
- 前文
- 主文
- 末文
- 後付
挨拶状やお礼状、詫び状など、どんな場面でも使える基本的な手紙の形式は、以上の4ブロックからできています。今回は特に、前文について詳しくご紹介します。
頭語と時候の挨拶をする「前文」
前文は、手紙の最初に書く挨拶のことを指します。初めの挨拶である「頭語」、季節や天候に合わせた心情・季節感を伝える「時候の挨拶」、相手の健康や状況を気遣う言葉から構成されており、前文があるだけで丁寧な印象がグッと強くなります。
次の項目から「頭語」「時候の挨拶」「相手を気遣う言葉」について、手紙を送る場面、季節ごとにふさわしい言葉を紹介します。
頭語と結語
初めの挨拶である頭語は締めの言葉である結語と対応しており、手紙の種類によって使うべきものが違います。
今回は、基本、目上の相手、親しい相手、返信、面識のない相手に手紙を送る場合に使うべき挨拶をいくつかご紹介します。
▼一般的な手紙
どのような手紙でも使える、基本的な頭語と結語です。
- 頭語:拝啓、拝呈、啓上、一筆申し上げます
(差出人が女性の場合のみ) - 結語:敬具、拝具、敬白、かしこ
(差出人が女性の場合のみ)
よく使われる「拝啓」と「敬具」ですが、意味はそれぞれ「謹んで申し上げる」と「謹んで申し述べました」となります。より丁寧な表現が謹啓や敬白となりますが、意味はほぼ同じだと考えて差し支えありません。
▼丁寧な手紙
上司や取引相手、恋人の両親など、目上の方に贈る場合に使う丁寧な頭語と結語です。
- 頭語:謹啓、恭啓、謹白、謹んで申し上げます
(差出人が女性の場合のみ) - 結語:謹言、敬具、敬白、かしこ
(差出人が女性の場合のみ)
女性らしさを強調する「かしこ」は、ビジネスシーンには向かないので避けましょう。
▼前文を省略する手紙
親しい相手へ送る場合は、かしこまる必要もありませんので前文を省略してもかまいません。また、お詫び状やお見舞い状も一刻も早く謝罪したい、突然で驚いたという気持ちを表現するために省略しなければなりません。
- 頭語:前略、冠省、前文お許しください、前文ごめんください
(差出人が女性の場合のみ) - 結語:草々、不一、不備、かしこ
(差出人が女性の場合のみ)
深いお詫びの手紙を差し出す場合は「敬具」を使いましょう。
▼相手から来た手紙の返事
相手から手紙が来た時、返事を差し出す場合に使う頭語と結語です。
- 頭語:拝復、復啓、謹復、お手紙拝見いたしました
(差出人が女性の場合のみ) - 結語:敬具、敬白、拝答、かしこ
(差出人が女性の場合のみ)
頭語の「お手紙拝見いたしました」は「お手紙」の部分を「御状、貴簡、ご書状」のいずれか、「拝見」は「拝読」に変えてもかまわない。
▼面識の無い相手への手紙
まだ会って挨拶したことのない方への手紙で使う頭語と結語です。
- 頭語:拝啓、拝呈、初めてお便りを差し上げます、突然お手紙を差し上げる失礼をお許しください(差出人が女性の場合のみ)
- 結語:拝具、敬具、頓首、かしこ
(差出人が女性の場合のみ)
「頓首」とは、頭を地面に擦り付けるように拝礼する中国の礼式のことで、相手の敬意を示すために手紙の結語として使われるようになりました。
時候の挨拶と相手を気遣う言葉
季節や気候に応じた言葉を時候の挨拶と言い、頭語の後に書きます。1月から12月までそれぞれの月に定型句がありますが、かしこまらなくても良い相手であれば砕けた表現を使うと良いでしょう。
一文に時候の挨拶と相手を気遣う言葉が含まれることも多いため、今回は併せて紹介していきます。
▼1月の挨拶・睦月
改まった手紙の場合
- 初春の候、貴社の皆様におかれましてはお健やかに新年を迎えたことと拝察いたします。
- 風花の舞う今日この頃でございます。お元気でご活躍のことと存じます。
- 大寒のみぎり、皆々様におかれましては一段とご活躍とのこと、大慶至極に存じます。
親しい相手への手紙の場合
- 初春とはいえ厳しい寒さが続いております。
- 星も凍るような寒い夜が続いておりますが、お元気でいらっしゃいますか。
- 寒さも一層身に染みる今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。
▼2月の挨拶・如月
改まった手紙の場合
- 早春の候、各位におかれましては一段とご清祥のこととお喜び申し上げます。
- 梅香匂う頃、貴店ますますご隆盛とのこと拝察いたしております。
- 立春とは名のみの寒さですが、皆様風邪など召されずにお過ごしでしょうか。
親しい相手への手紙の場合
- 春の陽気が待ち遠しい今日この頃、風邪などひいていませんか。
- 梅便りが聞こえる今日この頃、お変わりなくお暮らしのことと存じます。
- バレンタインに街中がウキウキとしていますが、いかがお過ごしですか。
▼3月の挨拶・弥生
改まった手紙の場合
- 爽やかな梅の香りが漂う春暖の候、皆様におかれましてはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
- 春寒次第に緩み、日を追うごとに春めいてまいりました。
- 桃月の名に相応しく桃の香り麗しいこの頃、貴殿には一段とご清栄の由、大慶至極に存じます。
親しい相手への手紙の場合
- 日増しに暖かくなり、春の息吹を感じるこの頃、皆様お健やかにお過ごしのことと思います。
- ようやく春らしい暖かさを日差しに感じられるようになってきましたが、お変わりございませんか。
- 春霞の漂う季節となりました。
▼4月の挨拶・卯月
改まった手紙の場合
- 春爛漫の候、貴社におかれましては一段とご繁栄のご様子お慶び申し上げます。
- 新年度が始まり、気持ちを新たに笑顔でご活躍の由拝察いたしております。
- 春宵一刻値千金の候、ご家族の皆様にはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
親しい相手への手紙の場合
- 春も深くなり、朧月夜の美しい季節となりました。
- ここ数日の春雨に朝晩は肌寒さを感じますが、風邪などひいていませんか。
- 早いもので去りゆく春を惜しむ季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
▼5月の挨拶・皐月
改まった手紙の場合
- 八十八夜の別れ霜という言葉の通り、本格的に暖かくなってまいりました。
- 薫風の候、貴殿におかれましてはいよいよご隆盛の段と拝察いたします。
- 若葉の緑が目にしみる季節、皆様におかれましては一段とご発展のことと存じます。
親しい相手への手紙の場合
- 行く春が惜しまれる今日この頃、皆さんお元気でいらっしゃいますか。
- 牡丹の花が咲き誇り、日中は暑さに汗ばむ日々が増えてきましたが、お変わりありませんか。
- 吹く風も夏めいて、心も弾む季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
▼6月の挨拶・水無月
改まった手紙の場合
- 梅雨入りの気配を感じる天候が続きますが、皆様にはますますご活躍とのこと拝察いたしております。
- 若葉青葉の候、貴社いよいよご清祥のこととお喜び申し上げます。
- 暑さ日増しに厳しく感じる季節、公私ともに順調のことと存じます。
親しい相手への手紙の場合
- うっとうしい梅雨の季節となりましたが、変わらずお過ごしでしょうか。
- 雨だれの音が続く毎日ですが、ご無事にお過ごしのことと思います。
- くちなしの香りが漂う季節になりましたが、お元気でいらっしゃいますか。
▼7月の挨拶・文月
改まった手紙の場合
- 小暑を過ぎ、夏本番を迎えましたが、貴殿におかれましては暑さに負けずご活躍のことと存じます。
- 蝉の声に暑さ覚える今日この頃、熱中症にはお気を付けください。
- 涼風が肌に心地よく感じる季節、いかがお過ごしでしょうか。
親しい相手への手紙の場合
- うだるような暑さが続いておりますが、○○様におかれましては元気に暑さを乗り切っていらっしゃることと思います。
- 街中でも打ち水をする光景が見られるようになりました。
- お風呂上がりの夜風が気持ちよく感じられる季節ですが、お変わりありませんか。
▼8月の挨拶・葉月
改まった手紙の場合
- 納涼花火大会が開催される時期となりましたが、お変わりありませんでしょうか。
- 残暑厳しき折、各位におかれましてはご隆盛のことと存じます。
- 日中は残炎厳しいですが、潮汐涼味を覚える頃となりました。
親しい相手への手紙の場合
- 立秋を過ぎたとはいえ、焼けつくような暑さが続きますが、お変わりありませんか。
- 夜風に秋の涼しさを感じる季節ですが、夏の疲れが出ないように気を付けましょう。
- 暑さもようやく峠を越え、秋めいてきました。
▼9月の挨拶・長月
改まった手紙の場合
- 残暑もいくらか落ち着き、過ごしやすい日が多くなりました。
- 初秋の候、貴殿にはますますご繁栄のことと拝察いたしております。
- 白露に深まりゆく秋を感じる季節となりました。
親しい相手への手紙の場合
- 一雨ごとに涼しくなってまいりましたが、ご無事でお過ごしのことと思います。
- 暑さ寒さも彼岸までと言いますが、秋風の心地よい日々が続きます。
- 日暮れの時間が段々と早くなり、深まる秋の気配を感じるようになってきました。
▼10月の挨拶・神無月
改まった手紙の場合
- 菊花の候、皆様にはますますご繁盛とのことお慶び申し上げます。
- 燈火親しむの候、貴殿におかれましては実りの季節を迎えられていることと存じます。
- いよいよ秋が深まり秋涼を感じるこの季節、お変わりなくお過ごしとのこと拝察いたしております。
親しい相手への手紙の場合
- 芸術、食欲、読書……どんな秋をお過ごしでしょうか。
- 小春日和のうららかな季節、ご家族の皆様いかがお過ごしでしょうか。
- 夜長の頃となり、深まる秋を感じる季節となりました。
▼11月の挨拶・霜月
改まった手紙の場合
- 晩秋の候、公私ともに慌ただしい時期になりましたが、ご活躍のことと存じます。
- ゆく秋の寂しさ身に染みる頃、貴殿には相変わらずご精励のことでしょうか。
- 夜寒の折、ご多忙のことと存じますが、風邪など召されておりませんか。
親しい相手への手紙の場合
- 温かい鍋料理が恋しい季節になりましたが、風邪などひいてはいないでしょうか。
- 菊の薫る今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
- 木枯らしが吹き、落ち葉舞う時節となりました。
▼12月の挨拶・師走
改まった手紙の場合
- 師走の候、皆様におかれましてはご活躍のことと拝察いたしております。
- 北風すさぶ季節、体調を崩してはおられないでしょうか。
- ゆく年を惜しみつつ新年に思いを馳せるこの頃、お忙しい時期でございますが、○○様にはご健勝にて何よりと存じます。
親しい相手への手紙の場合
- 澄み渡る夜空に見える星が美しい季節となりましたが、お変わりございませんか。
- 街中はクリスマスイルミネーションがまばゆく、華やかな季節になりました。
- 年の瀬も押し迫ってまいりましたが、風邪などひいてはいないでしょうか。
時候の挨拶のポイント
例文にあるようなものだけでなく、誕生日といった相手のイベントやその年の天気等を交えると自分らしさが出ます。
前文の書き方
頭語は便箋の1行目に、頭一文字分を空けずに書きます。頭語の次を一文字分だけ空けてから時候の挨拶、相手を気遣う言葉を続けていきます。次に軽い近況報告を入れたり、お世話になったお礼や長い間連絡を取っていなかったことへの謝罪をしたりしましょう。
前文の文例
拝啓 暖かな春風を感じる季節を迎え、○○様におかれましてはなお一層ご活躍のことと存じます。おかげさまで、私もつつがなく過ごしております。長らくご無沙汰いたしまして、心苦しく存じております。
上記の文例は丁寧な書き方なので、親しい人に出す場合はもっと砕けた調子で書いても構いません。
手紙の前文は心のゆとりを表す
例え親しい友人であっても、挨拶をせずにいきなりお喋りをすることは少ないでしょう。ましてや目上の人と会話をするときに、挨拶なしでいきなり本題に入ったら失礼な人、余裕の無い人だと思われてしまいます。
手紙でも同じことで、会話での「おはようございます」や「今日も天気がいいですね」にあたる部分が前文になるのです。前文を省略する内容は、お詫び状とお見舞い状と早く本題に入りたいと慌てたり焦ったりといった気持ちがある手紙に限ります。
心にゆとりを持って、会話でも手紙でも丁寧な“あいさつ”をしたいものですね。